シリーズ元気  日本社会に閉そく感が漂っている。各種調査でも将来に夢や希望をもてない若者が諸外国に比べて多い。だが、失敗や挫折をものともせず、目標を実現させた人々、挑戦し続ける人々がいる。元気を出せ日本人! そんな思いも込めて、「元気群像」を紹介する。

ネットおばあちゃん   (1)時代を先取りする行動力

 東京・世田谷の1軒の住宅。懐かしい雰囲気の木製の門を開けると、「コンピューターおばあちゃんの会」と書かれた、小さな手作りの看板がかかっている。

 ここは大川加世子(72)の自宅兼、同会のパソコンサロンだ。室内にはお年寄りたちの元気な声が響く。 発足して6年目、200人弱の会員は、北海道から沖縄まで全国に広がる。国内はもとより、海外でも会のことが報道され、すっかり有名になった。

大川は、周囲が舌を巻くほどのエネルギーと行動力の持ち主だ
大川は、周囲が舌を巻くほどのエネルギーと行動力の持ち主だ
 高齢者とパソコンという組み合わせは、今や珍しくはない。各地で高齢者向けのパソコン教室や、ネットワーク作りが盛んに行われている。

 大川はその草分け的存在だ。しかも、行政や組織に頼らず、自力で道を切り開いた。「世田谷のおばあちゃんが、できることをしただけですから」

 口調はどこまでもやさしく上品。しかし、このおばあちゃん、周りの人たちが「米国シリコンバレーのボランティアたちがやっていることを、1人でこなしている」と言うほどの、エネルギーと行動力の持ち主なのだ。

 1997年3月。大川は世田谷ボランティアセンターに足を踏み入れた。窓口にいた杉本浩一(29)は、なんだか申し訳なさそうに入ってきたことを覚えている。「高齢者にパソコンライフを普及させるボランティアを生涯の仕事にしたいのですが……」。第一声も、どこか心配気だった。

 当時、国内はパソコンブームに沸いていた。基本ソフト(OS)「ウィンドウズ95」発売以来、新聞やテレビは毎日のように、パソコンとインターネットを取り上げた。後れてはならじ、と勉強に走る姿も目立った。お年寄りはその渦から取り残されていたが、「高齢者こそパソコンが必要」と大川は思っていた。パソコンとインターネットがあれば、寝たきりになっても、友人と“会話”したり、自由な“空間”が広がる。

 しかし、パソコンは高い。操作も難しい。パソコン教室も若い人向けだ。高齢者が自分たちのペースで学び遊ぶ会を作りたい。

 「パソコンを貸していただけないでしょうか」。企業、自治体を回って、頼んだ。しかし「おばあちゃんがパソコンをするわけないでしょ」「年寄りとパソコンはミスマッチ」――にべもなかった。ほとほと困って訪ねたのが、ボランティアセンターだった。

 杉本は、時代を先取りしたような大川の話に引きつけられた。「デビュー前のアイドルに出会った気がした。この人のやることは絶対に芽が出る、と直感した」。アイドルのデビューに一役買おう。そんな気持ちになっていた。(敬称略)

 解説部 知野 恵子

(2002年11月19日)

ネットおばあちゃん (2)“熱意”が広げる賛同者の輪


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