<連載第3回>(『マネジメント倶楽部』1998年1月号より転載)

探 訪
 インターネット活用事例

野口壽一(株式会社キャラバン・代表取締役)

 企業でのインターネット活用を考える場合、まず最初に思い浮かぶ利用方法は、会社や製品のイメージ広告、販売促進・通販、求人広告などではないだろうか。ところが、日本での企業によるインターネット・ホームページの活用元年となった一昨年(1995年)、当時はあまり注目されていなかったインターネットの情報収集能力と資材調達能力に注目し、しかも、日本語ページより英語ページを優先して制作した会社があった。株式会社シャミオール(東京都台東区東浅草1-19-6。大澤重見社長)である。
 97年になって、家電・電気電子機器や自動車などの大手アセンブルメーカーがインターネットのこの機能に注目してこぞって資材調達ページを作るようになった。ところが、シャミオールは、インターネットが得意とする電気・電子・コンピュータ業界とは異なる素材・ファッション業界に属しており、規模的にも中規模の企業である。ではなぜ、シャミオールにこのような先進的な取り組みができたのだろうか。そしてその効果はどうだったのか、読者ならずとも興味の湧く点であろう。この点を大澤社長に聞いた。

 進取の気風あふれるシャミオール 

 シャミオールは1969 年、それぞれ、企画力、技術力、営業力に特色を持つ中小の靴メーカー3社が合併して誕生した。以来、カジュアルななかにもエレガントさをあわせもつ婦人革靴を開発・販売してきた。1ブランドで年商30 億円という常識破りのヒット商品となった婦人靴「ゴルフ」を生み出した婦人靴のリーディングカンパニーである。資本金は9000万円、従業員170名、年商100億円の伸び盛りの企業である。本社は靴産業の伝統の地・浅草にあり、東京都内やいわき市などに9カ所の事業所を持っている。
 シャミオールは進取の気風あふれるユニークな会社だ。大手アセンブルメーカーがインターネットの資材調達能力に目をつけたように、革靴という製品のアセンブルメーカーであるシャミオールも、製靴業界に新風をふかせ続けてきたのである。シャミオールの社風を特徴づける言葉に「腹八分目経営」「適時、適品、適量」「ずばぬけた企画力・創造力」などがある。
 例えば、「適時、適品、適量」については次のように説明される。「大量消費の時代から、多様化の時代になり、靴も多品種少量生産に対応しなければならなくなった。しかも、必要な商品を必要なときに必要なだけ供給することが、要求される。そのため、いち早くコンピュータ管理を進め、業界ではじめて、かんばん方式を導入した。必要な分だけ仕入れて、必要な分だけ作る。見込み生産は行わず、すべて受注生産である。在庫も最小限しか持たず、1足から千足までの受注に対応できることになった。」
 「同社の生産体制には、もう1つの秘密がある。同社は自社工場の他に約20社の協力工場を持っており、合計すれば日産6千足の生産能力となる。これらの協力工場は、本当にすばらしい製造技術を持っている。売れる商品企画を提供すれば、いくらでもいい靴を作ってくれる。同社としては、自ら設備投資をすることなく、生産能力を確保できるわけで、利益率もいい。優れた企画力があればこそできることである。」

 インターネット導入のきっかけ 

 シャミオールがインターネットを導入するきっかけになったのは、95年秋に日本を訪れたヨーロッパの同業者が、秋葉原のショップに展示してあったパソコンに自社のホームページを呼び出して大澤社長に見せたことだった。大澤社長はびっくりしながらも、自社でもホームページを開設したいとの思いにかられた、と言う。
 シャミオールでは、製造やデザイン、会計や事務処理にオフコンやパソコンを導入済みではあったが、インターネット用の設備はなかった。そこで、大澤社長は外部業者に導入を依頼することを決定、当社(株式会社キャラバン)との出会いとなった。
 私が大澤社長に初めてお会いしたのは95年の12月。インターネットにかける社長の熱意と先見性にまず驚かされた。当時私は、ホームページを開設したらすぐに売り上げが増えると思って当社に依頼してくる顧客や、そのような勘違いを逆用して高い制作料でホームページを作り逃げする業者がいるのを、インターネットの普及にとって困ったことだと思っていた。そこで、顧客との最初の面談では、顧客が陥りがちなインターネットへの過度の期待を和らげる説明から始めるのを常としていた。
 ところが、大澤社長の場合にはその必要がまったくなかった。それどころか、「英語で外国に情報発信したい。特に、わが社が必要としているデザインや靴材料に関する情報を海外から集めたい。そのためのホームページを企画してほしい」と要請されたのである。これは私にとっても驚きであった。大澤社長は、シャミオールが扱う商品はファッション商品であり、情報が命だからと強調された。新しいデザインや流行しそうな色、改良された素材・材料、靴に関するあらゆる情報を誰よりも早く入手したいのだ、と。

▲シャミオールのホームページ(英語)

 情報提供を訴える異色のページ 


 何回かの制作打ち合わせを経て、シャミオールのホームページが完成した。トップページには「求む、ビジネス・パートナー」のタイトルで短いアピールが掲載され、そこからダイレクトにリンクする形で「業界の皆様へ」というより具体的なお願いが表示される異色の構成となった。平たく言えば、「当社に売り込みに来てください」という内容である。次にその内容を紹介する。
 「情報をお寄せください」「シャミオールの製品造りの基本は、創造、高品質、時流、適正な価格、そして販売ルートの改革と国際交流の促進です。特に、日本の革靴産業は、従来からの国内生産競争と、急速に増大する革靴およびスニーカーシューズの輸入によって、ますます厳しい競争に直面しております。その対策として、シャミオールは、新しい技術、新しい素材、新しいファッション情報を、常に各国の素材メーカーや靴メーカーの皆様と交換し、交流を進めてまいりました。ホームページを開設したこの機会に、シャミオールは、世界の関連業界の皆様とインターネットを通してよりいっそう交流を深め、ビジネスを拡大していきたいと念願しております。」「シャミオールは、下記の素材に関する新しい情報を求めています。ご連絡を心からお待ちしております。」
 このアピールの次の行に、シャミオールにメールを出せるボタンが仕掛けられている。

▲海外の製靴業界の人々との交流を呼びかけるページ

 インターネット導入の効果と問題点 

 シャミオールではホームページの開設にあわせて、ホームページを使った情報収集やメールのやり取りなどを行うインターネット担当者を社内に置き、双方向のコミュニケーションがスムーズにできるような体制をつくった。
 ホームページを告知するため、国内外の検索サーバーや、世界中の靴メーカーを網羅した海外のウエブサイトにホームページの住所=URLを登録した。日本からは第1号の登録だった。
 開設して2年近くが経ったが、現在でも海外・国内を問わず毎日のようにアクセスがあり、情報提供のメールが来る。それだけでなく、さまざまな問い合わせメールが届く。それらのひとつひとつに返事を出すようにしている。シャミオールでは、全国紙に定期的に広告を出稿しており、そこにはホームページの住所を表示するようにしている。当然、新聞に広告が出た後のアクセス数は飛躍的に上昇する。
 情報化社会に即応して、情報収集・提供の新しいチャンネルがシャミオールには加わった。業界でもいち早くインターネットを導入した、ということで営業を始め社員に対しても好影響を与えることができた。
 しかし、実際に運用してみると不満や要望も出てくる。例えば、インターネットを使った情報交換は速くていいのだが、情報がデジタルデータで文章が多い。グラフィックデータが送られてきても、プリントだから現実感がない。大澤社長の言――「インターネットでコンタクトした後はサンプルを持って当社を訪問して欲しい。プリントや写真では、素材の感触、風合い、重さ、軽さなどがわからない。インターネットは入り口であって、本当の情報交換は現物を前に行いたいものだ。」

 期待 

 「次の展開として、直売のコーナーを作ってみたい。これはあくまでもパイロットショップをホームページ上で運営するようなものだ。消費者の反応を直接探るとともに、販売に携わる人たちの苦労を知りたいからだ。」(大澤社長)
 シャミオールには、一般通念にとらわれたり、あるいは、「インターネットには素人だから」といった業者まかせの姿勢はない。あるのは、あくまでも自社の業務の必要に応じて役立つようにインターネットを使いこなそう、という姿勢である。情報収集から出発して直販モールへの動きは、一般とは逆の動きのようにみえるが、実はここに、シャミオールの進取の気風にあふれる創造力が発揮されているのだろう。

URL:http://www.caravan.net/shamior/


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