<連載>(『マネジメント倶楽部』2001年4月号より転載)

探 訪
インターネット活用事例


野口壽一(株式会社キャラバン・代表取締役)

  2001年、インターネットはどう変貌するのだろうか。思い返せば、日本でインターネットの商業利用が実質的にスタートしたのは1994年。この頃、ベッコアメやリムネットなどの格安民間プロバイダーが続々と誕生し、公衆電話網を使ったインターネット接続サービス競争の幕が切って落とされた。それからまる6年が経過し、7年目を迎える現在、インターネットの商用利用ステージの第2幕がひらこうとしている。



 生活の一部となったインターネット

 音響カプラーと呼ばれる300bpsの、亀より遅いのろのろ音声モデムはほんの6、7年前まで現役だった。インターネットが広がり始めた5、6年前でもまだ、一般の接続スピードは1200bpsとか2400bpsだった。混雑するとなかなかつながらず、つながっても接続料が気になって、ダウンロードしたらすぐに回線を切断してデータを読んだりしたものだ。  現在では、接続料も安くなり回線スピードも速くなり、かつ64kbpsとか128kbpsが普通になった。電話回線を使った接続だけでなくケーブルテレビと併用のインターネット接続も普及した。つなぎっぱなしで月間使用料が数千円という時代になった。既存の電話線をつかってISDNの24倍、CATVインターネットの約3倍を実現する常時接続1.5Mbpsの回線速度を月々5,800円で提供するADSL接続サービスが米国や韓国に続いて日本でも開始された。(http://www.acca.ne.jpまたはhttp://www.metallic.co.jp/など参照)



ADSLを推進するacca.ne.jpのホームページ
ADSLを推進するacca.ne.jpのホームページ



 メールの交換に始まり、オンラインショッピングや株式取引、振り込み・送金などのオンラインバンキング、等々。インターネットはいまや完全に生活の一部となった。iMODOの登場によるモバイル・インターネットの実現が、<生活の一部としてのインターネット>をより加速している。これが2000年までのインターネットの到達点と言っていいだろう。


 増大するネット社会の危険性

 それはあまりにもバラ色の未来像だ、という批判があろう。確かに、ネット社会の今後を考える上では、光だけでなく陰も強くなっていることを無視できない。  
●ハッキング、クラッキング(不正アクセス)の危機
 日本政府やアメリカ政府のホームページがハッキングとかクラッキングとか呼ばれる不正アクセスによって書き換えられた事件を多くの人がまだ記憶にとどめているだろう。2001年1月末には次のような外電が世界中を駆けめぐった。「『ペンタガード』と名乗るグループが、米国、イギリス、オーストラリア各国政府のウェブサイトをクラックした。同グループはそれぞれのサイトのホームページを書き換え、「人類史上最大の政府用、軍用サイトの改変である」と宣言した。この一連の攻撃により、20を超えるサイトが一時的に読めなくなった。」また、同月24日にはマイクロソフト社のサーバーがクラッキングを含むと報道される障害によりダウン。7400万人がサービスを受けられなくなった。イスラエルとパレスチナの対立はサイバー空間にも持ち込まれ、サイバーテロ合戦が繰り広げられている。  サーバーに対するこのような敵意に満ちた攻撃だけでなく、端末をねらった悪質な攻撃も増えている。




ウィルスに対する警告を発するIPAのホームページ


●ウイルスの衝撃
 2000年後半から2001年にかけてMTXというトロイの木馬型ウイルスが猛威を振るっている。このウイルスは添付ファイルを実行すると感染し、自分自身のコピーをメールに添付して外部に送ることにより、増殖していく。ワクチンを供給している会社のホームページへアクセスできないようにして、駆除されにくくする非常に悪質なウイルスである。このウイルスが、2000年12月20日、東京証券取引所が運営するメール・マガジン「MothersSuppotersClubメールマガジン」の会員約8000人に送りつけられる事件が発生した。この事件は危険なウイルスが送付されただけでなく、悪意を持った侵入者がメール・マガジンの記事を装ってデマやウソの情報を配信できる危険があることも示唆している。  経済産業省の外郭団体「情報処理振興事業協会」(http://www.ipa.go.jp/)は1月に2000年1年間のウイルス発見数は前年の3倍に増えた、と警告を発している。(グラフ参照)1990年からの統計をみると、96年までは年間1000件ほどだったのが、97年以降急増し、2000年には1万2000件近くに上っている。しかしこの数字は、IPAに報告されたものだけの数字であり、実数はこの数十倍以上であると予想される。


 高安全性、高信頼性、高速性を求めて


 インターネット世界を悪意ある攻撃から守るため各国でさまざまな努力が展開されている。ハッキングやクラッキングなどの不正アクセスを防止するためのファイアウォールと呼ばれる防護ソフトが提供されている。日本では先に述べた情報処理振興事業協会がセキュリティのための特別のページをもうけ活動に力を入れている(http://www.ipa.go.jp/security/)。また国際的に活動する多くのセキュリティ会社が設立されている。たとえばシマンテック社(http://www.symantec.co.jp/)、トレンドマイクロ社(http://www.trendmicro.co.jp/)などだ。これらのセキュリティ会社は最新のウイルス情報を提供するだけでなくウイルスからパソコンを守るアンチウイルスソフトを供給している。  このような個々の努力を総合して、インターネットをより信頼できるネットワークシステムとするために設立され、いま注目の的となっているのが、インターネットデータセンターである。  インターネットデータセンターとは、プロバイダーのプロバイダーとも言うべきもので、これまでのインターネットを、より安全で、より信頼でき、より高速なものにするサービスである。たとえば、銀行のATMは一瞬でもダウンすると全国ニュースで流されるほどミスの許されないシステムである。ところがインターネットの場合は、サーバーがダウンしても、スピードが遅くてなかなかデータが表示されなくても、なんとなく許されるある意味では「無責任」なシステムである。インターネットは、信頼性を犠牲に、つながることを優先したシステムだったからだ。ところがインターネットが本当の意味で社会生活そのものとなるためには安全かつ確実、高速なシステムとならなければならない。この期待に応えるのがデータセンター事業である。カリフォルニア州サンタクララに本社を置くエクソダスコミュニケーションズはこのようなインターネットデータセンター(iDC)を最初に事業化した会社で最高の技術を保有している。(http://www.exodus.co.jp)



最高レベルのiDCセンターをウエッブ見学できるサイト


 iDCは耐震構造の建屋、何重にもブロックされた扉、堅牢な壁や床という物理的に堅固な建造物の中に、現在入手しうる最高品質のサーバーとサーバー管理技術を格納して、数百Mbpsの高速な回線とつながるインターネット上のスーパーハイウェーである。http://www.exodus.co.jp/idcs/idc_diagram.shtmlにアクセスすればその設備の詳細を閲覧することができる。銀行のATM並の信頼性とテレビ放送と変わらない動画配信をも可能とするインターネット環境が、いま、整いつつある。


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