<連載>(『マネジメント倶楽部』2000年7月号より転載)

探 訪
インターネット活用事例

野口壽一(株式会社キャラバン・代表取締役)

 今年4月6日、携帯電話の加入者数が一般回線の固定電話(総合デジタル通信網=ISDNを除く)の加入者数を追い抜いたことが明らかにされた。96年度末に6122万人の加入者数でピークを迎えた固定電話加入者数はその後減り続け、2000年3月末に5566万人となった。これを携帯電話が上回ったのである。携帯電話は誕生からわずか20余年で通信手段の主役に躍り出た格好だ。
 この動きと歩調を合わせるようにNTTドコモのインターネット接続サービス「iモード」の加入者数も急増し、4月中旬には611万台を超えた。単なる数量だけの側面でなく、iモードは利便性や操作性の向上などによりこれまでのインターネット環境とモバイル環境を大きく変えようとしている。


 予想を超えるiモード携帯電話の普及 

 iモードは若者だけでなく中年以上の世代にも急速に浸透している。普及のスピードがあまりにも急なためインフラの整備が追いつかず、4月後半にはNTTドコモは加入者数を一時抑制する措置を発表するほどであった。
 予想を超えた普及を象徴する筆者の個人的な体験をまず紹介しよう。筆者の郷里は鹿児島市だが、正月とお盆の帰省のつど昔の悪ガキらといつも呑み会をやっている。近年は、酒の上でも彼らにパソコンとインターネットの活用を勧めるのが常だった。友人たちの多くがパソコンを使うようにはなってきたが、インターネットまではなかなかというのが実情だった。
 ところが今年の正月、ワープロ使いでパソコンに抵抗していた友人のひとりがiモード携帯電話を持ってきて、「ほら、インターネットはパソコンよりこちらがイイゾ」と見せびらかすではないか。地方新聞のニュースや天気予報情報を見せてくれた。農業関係の商売なので農家の人や業者との商談のとき、話題づくりに重宝している、とのことだった。

 携帯電話の小さな画面でインターネットなんてと小馬鹿にして、帰省のときを含めて普段の外出のときも小型のノートパソコンに携帯電話をつないでモバイルコンピューティングをしていた筆者としては完全に追い抜かれてしまった。帰京すると早速、それまでの通話中心の携帯電話をiモードに買い換えて使ってみた。その結果、この商品は従来の「携帯電話」という枠組みを超越する究極のモバイルツールであり、まったく新しい機能を持ったコミュニケーションツールである、と確信した。

 iモード携帯電話の主な機能 

 iモード携帯電話の機能の第1は、いうまでもなく電話である。しかし、iモードをiモードたらしめている機能は、(1)サイト接続サービス、(2)iモードメール、(3)インターネット接続の3つである。この3機能とも実はインターネットを利用したコミュニケーションサービスなのだが、独自の工夫によってさらに使いやすく進化しているのだ。
 さらに特筆すべきは、文字入力から始まる操作性が飛躍的に進歩している点である。今回のテーマではないので余り詳しくは触れられないがネットワークを利用したコミュニケーション機能だけでなく、携帯端末としての機能が素晴らしい。筆者はWindowsCEをOSとする電子手帳を使っていたが、iモード端末のスケジューラとTODO機能があまりにもサクサク動き、素晴らしいので電子手帳は人にやってしまったほどだ。

 独自の文化を創り出したサイト接続 

 サイト接続サービスとは、iモード用に提供されているサイト(番組)を閲覧できるサービスである。サイトはいわゆるインターネットのWeb(ホームページ)のようなものだが、小さな画像や文字中心のデータ配信サービスで、iモードを特徴づける新しい文化を提供するものとなっている。
 ニュース/情報、モバイルバンキング、カード/証券/保険、トラベル、チケット/リビング、グルメ/レシピ、エンターテインメント、タウン情報、便利ツールなどのメニューがある。iモードサービスが始まったとき大量に流された、広末涼子がiモードから銀行振り込みするCFをご記憶の方は多いだろう。生活に密着した情報を取り出し、直ぐに返事する(ボイスとメールの双方が可能)。この機能を手のひらの上で実行できるのだからパソコン革命以上の革命となる可能性がある。うれしいことにこの技術革新では世界に対して日本が最先端を走れる可能性もある。また携帯電話は、インターネットのネックであった課金問題を解決した。それにより月々100円とか300円とかの定額・低額の有料サイトも多く登場しサービスに彩りと奥行きがでてきた。しかし無料(通信料は必要)で見られる有益なサイトも数多い。筆者がよく利用 する便利な無料サービスには、リアルタイムの株価情報、書籍検索、単語検索、電車乗り換え情報などがある。その中でも特に便利なのが株価情報と英単語検索。この面でも電子手帳は不要になった。

 iモードメールは手のひらメール 

 iモードメールは、基本的には普通の電子メールと同じである。ただ、データ量が全角で約250字分、添付ファイルは送受信できない、などの量的な制限があるだけである。長文のメールが途中でカットされるのさえ気にしなければ、通常のアドレスに来たメールをiモードに転送しておけばいつでも誰からメールが来たかを確認できる。さらに、メールが到着したときに着信を知らせてくれる機能は特に便利だろう。いまでも着信をファックスで教えてくれるサービスがあるくらいだ。操作性が向上したとはいえ、iモードを使ったメールのやり取りにはさまざまな不便があるのは事実だ。ここにニーズを見つけたニュービジネスも登場してきている。
 iモードのメールサービスには、普通のインターネットにはないサービスもある。メッセージサービスである。これは、事前に特定のサイトに登録しておけば定期的にメッセージが届けられるサービスである。iモードメールでは文中に埋め込まれた電話番号をクリックすると自動的に電話がかかる仕組みになっている。メッセージサービスはまだそれほど種類がないが、電話発信機能とメッセージ機能を組み合わせた新しいサービスがこれからつぎつぎと実現されるに違いない。

 iモードでインターネットに接続 

 iモード電話機の画面は小さいのでほとんどのWebサイトが表示できないとの報道があるがそんなことはない。フレームを使用したり、音声や動画を多用したようなサイトは無理だが、最近のカラーiモードは画像もカラーで表示でき、パソコンでのネットサーフィンに近い感覚でインターネットを楽しめる。一方、サイト接続のようにすでにiモード文化とでも呼べるような、iモードに特化したWebサイトが数多く制作され公表されている。パソコンを使ったインターネットとはひと味違うインターネット活用が可能だ。
 例えばすでに述べたが、ホームページに電話番号が記載されていれば、それをクリックするだけで電話がかかる。また、イージーアクセスという機能があって、これを使えばカーソルキーを動かすことなく数字ボタンを1回押すだけでアイテムの選択が可能になる。マウスで目標のアイコンまでポインターを動かしてクリックという手間ひまかかる方法でなく、数字入力1発でリンク先に飛んでいってくれる。このようにiモードの方が進んでいる点もあるのだ。もちろん、ブックマークを登録したり、保存しておきたい画面をメモリに残しておくこともできる。
 自分のホームページを持っている人であれば、そのページに自分だけのデータ、例えば関係先の電話番号とかメールアドレスとか、よく見に行くサイトのURLだとか、その他秘密のデータなどを記載しておいて、iモードでそこにアクセスし、クリック1発で自分の必要な仕事ができるようにプログラムすることもできる。

 ビジネスへの応用も無限 

 iモード端末が携帯端末としてもよくできていることから、これを本社に設置したサーバーとインターネットで接続し、営業力を強化しようとする動きが出てきている。例えば、調査データの入力端末としてiモードを利用したシステム、受発注システム、顧客開発システムのCTI(コンピュータ・テレフォニー・インテグレーション)のテレフォン部分にiモードを使ったシステムなど、多様なアイデアが商品化されている。外回りが主体の営業担当者にとってはかさばるノートパソコンを持ち歩くより、ボイスとデータの両方のコミュニケーションができ、操作性もよいiモード端末の方が価値あるといえる時代がやってくるだろう。


前のページに戻る