●読売新聞(1997年11月11日付夕刊)

のんびり、ゆっくり
楽しみましょう

コンピューターおばあちゃんの会

「教室」ではなく「サロン」
若者や地域企業も支援

インターネットや電子メール、CD・ROM-パソコンは、お年寄りにとっても、目や足の変わりとして世界を広げてくれる、重宝な機械。東京・世田谷区の「コンピューターおばあちゃんの会」では、地域の企業や若者のボランティアに支えられ、お年寄りたちが、のんびり、ゆっくりと、パソコンの楽しみを味わっている。(吉田典之)


 「これはどうするの?」「ここを動かして...」。同会がこのほど、世田谷区と共催で開いた「コンピューターおばあちゃん祭り」の会場。役三十台のパソコンを囲んで、参加者たちの楽しそうな声がわき起こる。約六十人の参加者のうち、ほとんどは、これまでパソコンに触ったことのない人たちだ。多少でも経験のある人は、先生に早変わりし、電源の入れ方からクリックの仕方、キーボード操作を指導する。
 同会代表の大川加世子さん(六七)が旗揚げをしたのは、今年三月末。大川さんは、ワープロがまだ大型機械だったころから仕事で使ってきたベテランユーザーで、パソコンをお年寄りたちの楽しみと仲間作りの道具として活用しようと、たった二台の機械でスタートした。

 「電子メールでも、インターネットでも、まず一つの機能の面白さを知ってもらうことが、第一歩」と大川さん。難しい設定や、操作は、ボランティアが担当する。「教室」ではなく、楽しむための「サロン」に徹した会は人気を呼び、会員はたちまち百人を超えた。現在は月に二、三回のペースで会を開いている。
 八十七歳の女性は、自分が昔、旅行で訪ねた場所を今度はホームページで見てみたいと、電脳旅行を楽しんでいる。趣味の陶芸作品を紹介するホームページを制作したり、遠くの孫と電子メールを交換したりと、「皆さん、来るたびにどんどん明るく、若返っているようです」と大川さんもうれしそうだ。
 この会のユニークな点は、地域の企業や若者たちがボランティアで協力していること。
 NTTの研修所や、インターネット関連事業を手がけるキャラバン社(野口寿一社長)が、空き時間を活用して、この会の会場と器材を提供している。
 講師もボランティア。まだ数は少ないながら、会社を退職した人や大学生らが協力している。日本大四年の小林丈太郎さん(二二)は、講師のほか、同会のホームページ作成も担当。会員にとっては孫の世代だが、「(生徒のおばあさんたちに)人生相談の相手になってもらったり、生活の知恵を教えられることも多く、勉強になります」と話す。また九月末には、入社内定式のために上京してきた地方在住の学生が、一日講師を請け負う一幕もあった。

 パソコンの翼で世界を自由に広げている会員たち。そこに共通するのは、「自分の居場所と、自立のための道具を求める気持ちです」と大川さんは話す。メールで人間関係を広げることはもちろんだが、共通のネットワークを分かち合う仲間がいることも、元気のもとだ。また生活の助けになる、「ネットバンキング」や「オンラインショッピング」の普及にも、大川さんは期待を寄せている。
 高齢化社会とネットワークの連携を研究している吉田敦也・京都工芸繊維大助教授は「お年寄りにパソコンを使ってもらうには今日の生活に役立つものを提供していくことが必要。コンピューターを身近に感じてもらえば゛祖父・孫通信″のような生活習慣も広がっていくのではないか。こうした活動が地域に広がるには、住む人たちの意識改革と、それを刺激してくれる大川さんのような指導者が必要だろう」と話している。